神が宿る木

 

 

荒れた浜などに、他の樹木にさきがけて根をおろし、生育する松に対し、

古代の人々は畏れと尊敬の念を抱いた。

 

「常陸国風土記」に

「浜の松の下には、泉が湧きだしており、その水は非常にうまい」

と記されているように松に山野の霊が宿ることを知り、神格化が始まっている。

 


常陸国那賀郡の賀毘礼の高い峰には、天つ神の系統の立速日男命、

またの名を速経和気命という神がおられる。

 


もともとこの神は松沢というところの、枝のたくさんある

松の木の八俣においでになっていたが、祟神で、

この松の木に向かって大小便をすると必ず病気をしたという。

 


近くの人は困って、朝廷に申し上げ、うやうやしくお祭りし、

「この地はきたなく、臭く、神様の地にふさわしくありません。

清浄な高い山へお避けください」

と丁重に、高峰に造った社に移っていただいた、

と「常陸国風土記」は記している。

 


ここにも、松は世俗の地にあっても、清浄で、

その清浄さは神さえ宿ることができる

という信仰があったことが示されているのである。

 

 

有岡利幸 著者 「松と日本人」 より

 

 

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