赤松の生命力

 

赤松は森林が山火事や伐採などによって、それまで生育している樹木がなくなり、

裸山となったとき、あるいは火山の噴出で新しい土地が生まれたとき、

もっともはじめに根をおろすほど、たくましい生命力をもった樹木である。

 

 

田上山の自然休養林の一帯は、花崗岩が地中深くまで風化してできた

マサ土地帯となっている。

 

今では風化した砂、土はほとんど流れだして、花崗岩のシンともいえる

風化未熟の巨岩、奇岩が尾根に数多くあらわれ、特異な景観となって、

ハイカーたちの目を楽しませている。

 

そのような山地の尾根の一角にある高さ2mばかりの岩の側面にできた

裂け目に20cmばかりの小松が生えていた。

 

根もとの太さは鉛筆くらいで、幹は二本に枝分かれをし、針葉はその梢に

ほんの10本あまりずつ、着いているばかりであった。

小松が生えている岩の裂け目には、ほかの植物はみられなかった。

 

その岩に日かげを落とす木もなく、真夏の炎天下では、岩の上に卵を落とすと

目玉焼きができるくらい熱せられる。

さらに、水分補給をしようにも、流れ込む水流もない。

養分はほとんどない花崗岩の裂け目で、小松はけなげにも生きつづけていた。

 

しばらく歩いたところの風化のすすんだ巨岩の裂け目に、高さ1.5mくらいの

五段あまりの枝をもつ小松が生育していた。

 

 

硬い岩を風化し、いつのまにか土に変わる。

砕けた岩が土へと変わるというよりも、岩を割り、小さくし、

毎年の落ち葉が腐植となり、混じり合って、

岩石の砕屑物を土へと変えていく植物の一つとして

松は位置づけられていると感じた。

 


それだから、ほどんど他の植物が生活できない条件のもとでも

生育できるという旺盛な生活力をもち、

ほかの植物が生育できない空白部をすっぽりと埋めるように

進化した結果である。

 

松は、暑い夏も、酷寒の冬も、針葉の緑をつややかに、

常に保ち続けているところから、長寿の象徴とされている。

 

有岡利幸 著者 「松と日本人」(平成5年発行)  より

 

 

#松#赤松